ジメジメとしたまさに6月らしい曇り空の夕刻。
機材が並べられた小さなテーブルを挟んで、ハンドマイクとスタンドマイクが用意されたそこに、気負いなく現れたふたりのこれがなんと記念すべき千葉初ライブ。
1曲目は、2021年リリースの12thアルバム「Cell」の冒頭を飾る「seasons change」。
繊細な音色が流れ、アズマとサツキの声が放たれ、じっとりとした6月の空気がまさにチェンジしてゆくよう。心地よい異世界へさらりと連れ去られるよう。
とつとつと実直に語りかけるような、耳に胸に丁寧に届くアズマのラップ。まっすぐに広がる地平のように、実に伸びやかで包容力のあるサツキのフロウ。ふたりの声があたたかに重なり合って、もうすぐさま至福という言葉が浮かぶ。
きっと何度も着て、洗って、だからこその着心地のよさそうな服を着て、お揃いのニューバランスのスニーカーを履いて、自然体がいちばん素敵だと実感させるふたりのスタイル。
足元にはペットボトルではなく黄色い大きな水筒。スピーカーのスタンドにはサツキの大きなバッグ。そんなそこかしこからも漂い出す、ふたりの音楽の飾らない魅力。
「Cell」からの曲を立て続けに届け、メロウな佳曲から力強いビートトラックまでを幅広く放つ。
「きらいだ/なにもかもきらいだ/感情なんてそもそもあたかも存在してないかのような顔して」(瓶の中のエコー)
「喜びも/悲しみも/飲みこんだなら/飛べそうさ」「躓きも/辛すぎも/全てオーライ/君はどうだい」(コノサキノサキ)
スッと心に届いてくるアズマのライムは、研ぎ澄まされた言葉選びと、ラップとしてのスキルやクオリティの両立に、幾度もハッとさせられる。
心を震わせるサツキのヴォーカルは、情感豊かで芳醇。機材に触れるさまも、まるで踊っているかのようにたおやか。
そんなサツキが笑って言う。「手拍子チャンスだよ~!」。そしてもう以前からの友人かのような空気感で、手を鳴らし笑い合う空間。
サツキ「むちゃんこ楽しいんですけど!」
そうして「今日のために特別バージョンをつくってきたんですが・・・」と、反省点の残る曲にテヘヘと笑いながら。「落ち着いてきます」とアズマが上着を脱ぎにいく間、サツキのトークタイムに。
「cafe STANDの噂はずっと聞いてたんですけど、ようやく歌いに来れました!ランチも美味しかった!」「壁のサインを見たら、知った先輩方も山盛りで」そう、今日への想いを語る。
そして現在制作中だという13作目のアルバムから、新しい曲もいくつか。繊細で幻想的な音の粒からのびのびと心地よいメロディまで、多彩なリズムトラックと歌声が空間を彩る。つなぎも鮮やか。
サツキ「今日初めて歌うものもあるのでドキドキしてたけど、よかった~。ここで、歌いたかったんだ。わたしたち去年30周年で。やっと千葉でライブできて、もっと来たいと思います!」
cafe STANDがある西千葉エリアの料理店「良き日」にも訪れ「美味しかった!」と笑顔で語り、すっかり千葉を気に入った様子。
ふたりの背の窓には、ロールカーテン越しに濡れた車のライトが流れるようにぼんやりと映り、時が経っていたこと、雨が降っていたことにハタと気づく。Small Circle of Friendsという時空へ、とっぷりと誘われていたことに気づく。
「オッケー!」と合図のようにサツキが言うと、アズマが鳴らしたイントロに空間が大歓声。なつかしくも普遍の名曲「波よせて」。客席では思わず「泣いちゃう泣いちゃう!」と歓喜し立ち上がり自由に踊り出す人々。これぞ、本当のライブの姿。生きている姿。
さまざまなものがどんどん失われていく世の中で、30年在り続けるSmall Circle of Friendsの不変の素晴らしさ。
それに呼応するような「久しぶりの曲/久しぶり聴いた/久しぶりの君/久しぶり泣いた(夕焼けの歌)」というフレーズが、「今日次第で世界が変わる(新しい人)」というリリックが、響き合ってどんどんと胸に飛び込んでくる。
そして30年の時を超えるデビュー曲と、これから世に放たれる新作からの曲を鳴らし、cafe STANDと主催者へのありがとうと客席への拍手を贈り、ビッグスマイルではけたふたりへ当然のアンコールが湧き上がる。
笑顔で現れたサツキ曰く、アンコールは全然考えておらずいつも行き当たりばったりなのだとか。それもまた素敵な、ライブ本来のあるべき姿。そうしてその場で選んだ「Summer Song」は、まさにライブ感あふれる仕上がり。
サツキ「今日は電車で千葉に来たの。泊まらなくても終電で帰れるから、もう何回でも来れる!」
その言葉を胸に、明日へ続く期待を胸に、幕を閉じた千葉の初夜。
ライブ後にはそのまま、グッドミュージックなDJ陣によるチルなアフターパーティもcafe STANDにて。ふたりと同じ目線で触れ合える、あたたかなひとときもまた至福。
胸に残るのは、ライブ後、満たされた人波からふと聞こえてきた会話。「なつかしかった~。昔と変わってない~」「変わらず続けられてることがすごいのよ」。
そう。まさに。30年を迎えたSmall Circle of Friendsならではの、不変で普遍な素晴らしき一夜。
Text by kiyoe(エディター)
過去の出演者はこちらから
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